「AIを使っています」の次に、何を守っていると言えますか?
「AIに入れた情報って、どう管理されていますか?」
取引先や、応募してくれた候補者から、こう聞かれたらすぐに答えられますか?
議事録づくり、求人票のたたき台、メールの下書き。AIは人事の現場にもすっかり入り込みました。
私たちも、業務の大半をAIと一緒に回しています。
ただ、使えば使うほど、「何を入れて、何を入れていないのか」を自分たちの言葉で説明できるかが問われるようになってきた、と感じています。
この記事では、私たちがAIの守り方を「定型・判断・思考」の3つに分けて整理した考え方と、11月から施行する社内ルールの中身をお伝えします。
読み終える頃には、自社が「AIで何を守っているか」を3行で書き出せるはずです。
目次
「AIを使っています」は、もう差別化にならない
結論から言うと、「AIを使っています」という言葉だけでは、もう会社の強みとして伝わりにくくなっています。
ここ1年で、「AI推進」「AI活用」を打ち出す会社は一気に増えました。
デロイト トーマツ グループが2026年5〜8月に397社を対象に行った調査でも、業務効率化にAIを使っていない企業はわずか9%。使っていること自体は、もはや前提です。
同じ調査で目を引くのは、次の差です。
- 生成AIのガイドラインを策定・周知している:72%
- 従業員が会社の把握していない形でAIを使うことへの承認フロー・教育・インシデント対応を「実施していない・分からない」:74%
- AIへの入力・出力の記録を取っている:11%
- AIの出力を定期的に監査している:8%
出典:ITmedia AI+「7割の企業が生成AI『個人利用』への対策せず デロイト調査」(2026年9月29日)
ルールは作った。でも、それが現場で回っているかは分からない。
これが多くの会社の現在地だと、私たちは見ています。
差がつくのは「何を守り、何を外に出さないか」
先日、業務改革を一緒に進めてきた外部のパートナーと話していて、印象に残った言葉があります。
AIを使っている会社は本当に多い。
でも、どこまでの基準で何を守り、何を外に出さないかまで語れる会社は、まだほとんどない。
この言葉は、私たち自身にも刺さりました。
「AIをガッツリ使っています」と言うのと同時に、「そのうえで、ここまで守っています」と言える。
そこまで言えて、ようやく「本気でAIと向き合っている会社」として伝わるのではないか。それが、いまの私たちの見立てです。
裏を返せば、守っていることを語れる会社は、まだ少数派です。ここに差がつく余地があります。
守るものを「定型・判断・思考」の3つに分けて考える
では、何をどう守ればいいのか。
私たちは、業務をAIに渡すときと同じ「定型・判断・思考」の3つの箱で整理しています。
- 定型:守るのは「設定と仕組み」。人の注意に頼らず、仕組みで止める
- 判断:守るのは「入れる情報」。入れる前に、人が絞る
- 思考:守るのは「人の判断と考える力」。最後は人が決め、任せきりにしない
定型:人の注意に頼らず、仕組みで止める
1つ目は、毎回同じように守れるもの。ここは人の気合いではなく、設定と仕組みで守るのがおすすめです。
- 使うAIサービスは、会社が認めたものに限る
- 入力した内容を、AIの学習に使わせない設定にする
- AIが作ったメールや投稿は、人が承認しないと外に出ない仕組みにする
見落としやすいのが、学習の設定です。
自分は学習させない設定にしていても、手順書やプロンプトを共有した相手の設定が違えば、守りはそこで途切れます。
共有する相手にも同じ設定をお願いする。
地味ですが、ここが最初の一歩です。
判断:入れる前に、人が絞る
2つ目が、人事にとって一番悩ましい領域です。
面接の振り返り、1on1の記録、評価会議のメモ。人事の会議には、候補者や社員の個人情報が当たり前のように含まれています。
議事録づくりのために会議の文字起こしをAIに渡すと、「今日面接した〇〇さんは……」という話まで、そのまま一緒に渡りそうになる。人事の現場では、そんな場面が少なくありません。
そこで私たちは、AIに入れる情報を3つに分けることにしました。
- 入れてよい:公開済みの求人情報、一般的な調べもの など
- 絞ってから入れる:履歴書・職務経歴書、面接や1on1の文字起こし、クライアントの採用計画 など。会社が認めたサービスで、必要な部分だけに絞って渡す
- 入れない:パスワードなどの認証情報、マイナンバー、決済情報、病歴などの特に配慮が必要な個人情報
たとえば、面接の振り返りをAIにまとめてもらうとき。
- ビフォー:文字起こしを丸ごと貼り付けて「要約して」
- アフター:氏名をイニシャルに置き換え、評価に関係する発言だけを抜き出してから渡す
手間は数分増えます。ただ、その数分で「何を入れたか」を説明できる状態になります。
思考:任せきりにしない
3つ目は、見落とされがちな守りです。
情報の流出だけでなく、「人が考えなくなること」も守る対象だと私たちは考えています。
AIに任せて回し続けていると、以前なら途中で立ち止まって考えていた場面が、いつの間にか素通りになっていきます。
パートナーとの対話でも、「便利さの裏で、考えることをサボり始めている怖さがある」という話になりました。
人事の仕事の中で、考えなくなることの影響が一番大きいのは人の評価です。
私たちは、AIの出力だけを根拠に、不採用などの不利益な決定をしないと決めました。
AIの評価は判断の材料にとどめ、合否や評価を決めるのは人。
その判断の理由を説明できるよう、記録を残す。
人事領域を支援する立場として、ここは譲れない一線です。
作れる人が増えるほど、管理がいる
パートナーとの対話で、もう一つ印象に残った話があります。15年ほど前、Excelのマクロで起きたことです。
マクロを作れる人が増えると、それぞれが自由に作り始めます。やがて社内にマクロがあふれ、誰が何を作ったのか分からなくなる。
最後は「個人で勝手に作るのは禁止。作るなら申請して、何をしているのかをまとめよう」という流れになった、という話でした。
今のAIは、あのときよりずっと速く、ずっと簡単に仕組みを作れます。
システムに触れてこなかった営業担当が、自分でAIを使ってデモ画面を作り、提案に持っていく。そんな会社も珍しくなくなりました。
私たちも、AIに決まった仕事をさせるための手順書(スキル)をたくさん作ってきました。作るのは簡単です。
ただ、手順書には顧客名やフォルダの構成、認証キーといった情報が入り込みやすい。
試しに作って使わなくなったものや、中身が重複したものも、気づけば増えていきます。
そこで11月からは、手順書を毎月点検するルールにしました。見るのは次の4点です。
- しばらく使われていないものはないか
- 似た内容のものが重複していないか
- 個人名・顧客名・認証キーなどが入り込んでいないか
- 必要以上の権限を持っていないか
使っていないものは廃止し、社外に共有するときは相手にも同じ設定を求めます。
マクロの時代と違うのは、禁止から入らないことです。作るのは自由。
その代わり、台帳と点検で「見える状態」にしておく。
これが、作れる人が増える時代の管理だと考えています。
AIの守り方は、人事の仕事になる
ここまで読んで、「これは情報システム部門の話では?」と感じた方もいるかもしれません。
私たちは、AIの守り方はこれから人事の仕事になっていくと考えています。理由は3つです。
- 採用:候補者の個人情報を一番多く扱うのは、採用の現場です
- 教育:ルールは、知らなければ守れません。入社時と定期的な研修で伝える仕組みが要ります
- 評価・組織づくり:AIの出力を人の評価にどう使うか。AIに任せきりにしない文化をどう育てるか。これは制度と組織の話です
就業規則や情報セキュリティの教育と同じ棚に、AIの使い方を置く。そう考えると、人事が持つのが自然です。
私たちも、この考え方を形にするために、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」に沿って、社内の「生成AI利用規程」を定めました。2026年11月から施行します。
教育と誓約は、社員だけでなく業務委託のパートナーにも行う予定です。
ただ、ルールは作っただけでは機能しません。
冒頭の調査が示すとおり、ガイドラインがあっても運用が回っていない会社は多い。
教育し、点検し、見直し続けて初めて「守っている」と言える。私たちもまだ、その入り口に立ったところです。
まとめ:明日からできる4つのアクション
AIの守り方は、AIの使い方を止めるためのものではありません。
胸を張って使い続けるためのものです。明日からできることを4つ。
- 使っているAIサービスの「学習に使わせない」設定を確認する。手順書やプロンプトを共有している相手の設定もあわせて
- AIに入れる情報を「入れてよい/絞ってから入れる/入れない」に分ける。A4一枚の表で十分です
- 社内で作ったAIの仕組みや手順書を一覧にし、点検する日を決める。月に一度、使っていないもの・重複・情報の混入を見る
- 「自社はAIで何を守っているか」を3行で書いてみる。書けなかった部分が、次に手を打つ場所です
AIを使うことと守ることは、アクセルとブレーキの関係ではありません。
守っていると言えるから、思い切りアクセルを踏める。
私たちはそう考えています。
人とAIの役割分担から、人事部の自走まで。
→ 参謀OS(採用の自動化・人事部の自走)を見る

